目次
- 【売上】「なんとなく」から脱却する目標設定と活用法
1-1. 自院のポテンシャルを最大化する売上目標の立て方
1-2. 月次より週次?売上を振り返る最適な頻度とは
1-3. 数字のフィードバックがスタッフの「エンジン」になる - ドクター・スタッフの「パフォーマンス低下」を防ぐリソース管理 2-1. ドクター・スタッフのやりがいが次の成長を生む
- 【新規・既存顧客の割合】安定経営の鍵はリピーターにあり
3-1. なぜ美容皮膚科は既存顧客が生命線なのか?
3-2. 目指すべきは「開業1年で既存顧客率50%」
3-3. 既存顧客がもたらす経営と心の安定
- まとめ
1. 【売上】「なんとなく」から脱却する目標設定と活用法
経営の基本は、やはり「売上」です。しかし、その目標設定が「大体このくらい」と曖昧になっていませんか?成功するクリニックは、自院のポテンシャルに基づいた明確な目標を持ち、それをスタッフの力に変えています。
1-1. 自院のポテンシャルを最大化する売上目標の立て方
「個人クリニックなら月商2,000万円」といった話はよく聞かれますが、これはあくまで一つの目安に過ぎません。本当に目指すべき売上目標は、クリニックの状況によって大きく異なります。
- 部屋数(施術室・診察室の数)
- スタッフ数(ドクター、看護師、カウンセラーなど)
- 診療内容(外科中心か、皮膚科中心か)
例えば、美容皮膚科であれば月商2,000万円は一つの目標になりますが、ドクターや看護師の人数、部屋数が多ければ、その目標では全く不十分なケースもあります。逆に、高度な技術を要する美容外科では、ドクターの意向も踏まえ、さらに高い目標設定が可能です。
重要なのは、他院の数字に惑わされるのではなく、自院の設備や人員という「器」から、どれだけの売上が見込めるのかを冷静に算出することです。コンサルタントのような第三者の視点を入れることで、「実はもっと上を目指せる」といった自院の本当のポテンシャルに気づくことも少なくありません。
1-2. 月次より週次?売上を振り返る最適な頻度とは
目標を立てたら、次は振り返りです。しかし、クリニックの状態によって最適な頻度は異なります。
- 月次での振り返りが適しているケース
・経営が安定し、毎月の件数が予測できる段階にあるクリニック - 週次など、より細かい振り返りが適しているケース
・開業1年未満で、売上の変動が大きいクリニック
・外科手術など、月ごとの繁閑差が激しいクリニック
特に開業初期や施策の変更直後は、月1回の振り返りでは「なぜ売上が未達だったのか」という原因分析が大まかになりがちです。週次で数字を追うことで、施策の効果を素早く判断し、細やかな軌道修正が可能になります。
1-3. 数字のフィードバックがスタッフの「エンジン」になる
週次で数字を見る最大のメリットは、経営判断のスピードアップだけではありません。実は、現場スタッフへの強力なモチベーション向上に繋がるのです。
施術や患者様対応に集中しているスタッフは、自分の働きがクリニック全体の売上にどう貢献しているのかを実感しにくいものです。そこで、経営層が数字を分析し、具体的にフィードバックすることが極めて重要になります。
- 具体例①:成功体験の可視化
「〇〇さんが積極的に案内してくれたボトックス、今週は目標の〇件を達成しましたよ!ありがとう!」
→自分の貢献が数字で認められることで達成感が生まれ、他の施術提案への意欲も湧きます。 - 具体例②:漠然とした不安の解消
スタッフ:「最近、〇〇の手術の患者様が減っている気がします…」
経営者:「データを見ると、先週も通常通り〇件の予約が入っていますよ。大丈夫です。」
→根拠のない不安を取り除き、安心して業務に集中できる環境を作ります。
施策はトップダウンで下ろすだけでは現場に浸透しません。数字という客観的な事実を用いたポジティブなフィードバックこそが、施策と現場の行動を結びつけ、クリニック全体を動かす「エンジン」となるのです。
2. ドクター・スタッフの「パフォーマンス低下」を防ぐリソース管理
売上を追求するあまり、現場、特にドクターのリソースを無視した予約管理は、深刻な問題を引き起こすことがあります。
ドクターは医療のプロフェッショナルであると同時に「職人」でもあります。高い集中力を要する手術には、それぞれ最適な時間帯や1日の件数上限が存在します。売上向上のために外科医のスケジュールを過密に組んでしまうなど「人的リソース」を無視した経営は、パフォーマンスの低下やスタッフの疲弊を招き、長期的にはクリニックの評判を損なうことになりかねません。
2-1. ドクター・スタッフのやりがいが次の成長を生む
売上が軌道に乗ってきた段階でこそ、施術者のリソースとキャリアプランを考慮した経営へとシフトする必要があります。
- ドクターとの対話: 「今後、どの施術をもっと極めたいですか?」といった意向を確認し、その施術を増やせるようなマーケティング施策を共に考える。
- スタッフの得意を伸ばす: 「〇〇さんはシミ治療のカウンセリングが得意で、実際に患者様も増えているから、この分野をさらに伸ばしませんか?」と、個々の強みや好きを尊重する。
特に外科手術では、「この手術は1日〇件まで」といったルールを明確化することが有効です。これは無理な予約を防ぐだけでなく、「まだ予約枠が空いているから、機会損失にならないよう積極的にご案内しよう」という現場の意識改革にも繋がります。
売上数字だけでなく、スタッフ一人ひとりの「やりがい」や「成長」を考えること。それが、クリニックの次の成長ステージへの扉を開く鍵となります。
3. 【新規・既存顧客の割合】安定経営の鍵はリピーターにあり
最後の指標は、クリニック経営の安定性を測る上で最も重要と言っても過言ではない、「新規顧客と既存顧客の割合」です。特に美容皮膚科クリニックにとって、この数字は生命線となります。
3-1. なぜ美容皮膚科は既存顧客が生命線なのか?
- 美容外科と美容皮膚科では、ビジネスモデルが本質的に異なります。
美容外科 美容皮膚科 ビジネスモデル 新規顧客獲得型(一回完結の施術が多い) 既存顧客育成型(継続的な施術が多い) 平均客単価 高い 比較的低い(3〜5万円) 経営の課題 常に高コストな新規集客が必要 いかにリピートしてもらうかが鍵
美容皮膚科の客単価で、常に広告費をかけて新規顧客だけを獲得し続けるのは、経営的に非常に非効率です。いかにして一度来院された患者様に「また来たい」と思っていただき、リピーター(既存顧客)になってもらうか。これが経営安定化の絶対条件です。
3-2. 目指すべきは「開業1年で既存顧客率50%」
では、具体的な目標はどこに置けば良いのでしょうか。
一つの大きな目安として、「開業1年以内に、来院者の50%以上が既存顧客である状態」を目指すべきです。
実際に、開業1年でこの水準を達成し、月によっては既存顧客率が70%に達するクリニックもあります。この状態になると、毎月の売上予測が立てやすくなり、新規集客のプレッシャーから解放され、経営者の精神的なストレスは劇的に軽減されます。
3-3. 既存顧客がもたらす経営と心の安定
既存顧客が増えるメリットは、経営上の安定だけではありません。現場スタッフの心理的負担を大きく軽減する効果もあります。
毎日、初対面の患者様にゼロから関係性を築いていくのは、想像以上に気を遣い、精神的なエネルギーを消耗します。一方、気心の知れた既存顧客が来院されれば、スタッフはリラックスして質の高いコミュニケーションを取ることができ、院内全体の雰囲気も和やかになります。
既存顧客の増加は、売上の安定とスタッフの働きやすさを両立させ、クリニックに真の安定をもたらしてくれるのです。
4. まとめ
今回は、美容クリニック経営を成功に導くための3つの重要な数値指標について解説しました。
- 【売上】:自院の器に合った目標を設定し、週次などの細かいフィードバックでスタッフのモチベーションを高める。
- 【リソース管理】:売上伸長後は、ドクターやスタッフのキャパシティとやりがいを尊重し、無理のない成長を目指す。
- 【新規・既存顧客の割合】:特に皮膚科では、開業1年で既存顧客率50%以上を目指し、経営と心の安定を両立させる。
これらの指標は、どれか一つだけを見れば良いというものではありません。「売上」を追いながらも、現場の「リソース」に目を配り、将来の安定のために「既存顧客」を育てる。この3つをバランス良く見ていく視点こそが、これからの時代を生き抜くクリニック経営に不可欠です。
